筆界を特定するために利用される「筆界特定制度」。
その法令や政省令文には、「対象土地の所有権界やその他の筆界特定以外の事項を目
的とするものは却下する」との文言があります。
つまり、筆界特定制度は、「所有権界」ではなく、「筆界」の特定のみ可能なのです。
「筆界」と「所有権界」の違い
- 不動産登記法で定められている、公法上の境界
- 土地の区画を示す
- 登記をしなければ筆界は移動しない
- 民法で定められている、私法上の境界
- 所有の範囲を示す
- 所有者の同意があれば移動できる
このように、「筆界」と「所有権界」は異なる境界です。その違いを理解した上で、筆界特定制度を利用する必要があります。
「筆界」と「所有権界」の具体例
例えば、田んぼを区切る畔の中心を境界とした土地があったとしましょう。
この土地は、かつて、田を区切る畔の中心・A点-B点が、12番(所有者・甲)と13番(所有
者・乙)の「筆界」として登記され、面積や所有者が記録されました。この時点では、筆界
も所有権界も同一線です。
しかし、年月が経ってしまうと畔の中心ではなく、異なる線を筆界として認識する場合があ
ります。イメージ図だと、12番(所有者・丙)と13番(所有者・丁)の土地所有者は、イ点
ロ点-ハ点-二点を筆界だと捉えています。
それでも、12番と13番の本当の筆界は、A点-B点なのです。
土地は、利用形態が変わることもあれば、相続や売買で所有者が代わることもあります。そのため、土地を
使いやすくしようとした新しい土地所有者が、昔決めた境界線を変えてしまった場合もあります。また、中
には、隣接する土地所有者が故意に土地を越境して、異なる境界にしてしまったパターンも存在するようです。
所有権が認められても、「筆界」の位置は変わらない
民法には、「一定の要件を満たして一定期間土地を所有すれば、その占有している土地の所有権を取得できる」との規定があります。
しかし、民法上の要件を満たして所有権を得たとしても、以前に定めた「筆界」は変わりません。
- 丙さんと丁さんの土地境界線(所有権界)は、イ点-ロ点-ハ点-二点
- 12番と13番の地番境界線(筆界)は、A点-B点
申請が却下される具体例
筆界特定制度は、あくまでも「筆界」を探し出して特定する制度です。そのため、所有権界を定めることを目的とした申請は、却下されます。
では、どのようなときに申請が却下されるのかを、図を用いて説明いたします。
土地を分けるにあたり分筆登記が行われていない場合
地番8番の土地を所有する、甲さん。乙さんは、甲さんからこの土地の一部であるC-D-
E-Fの右半分を買い受ける契約をしました。ところが、甲さんは8番を8-1と8-2に分け
る登記手続き(分筆登記)を行っていません。そのため、乙さんはC-D-E-F部分を自分
のものにする登記手続き(所有権移転登記)ができません。
乙さんが、E-Fを8-1と8-2の筆界として
特定を求めるとどうなるのでしょうか?
この段階で8番の土地は、まだ分筆されていないので、E-F部分に筆界は存在しません。
このように、存在しない筆界の特定申請は、却下対象です。そのため、乙さんは、C-D-E-F部分に自己の所有権が存在する判決を受けるなど
した上で、8番の土地の分筆登記を甲さんの代わりに申請すべきでしょう。
乙さんは、甲さんと取り交わした売買契約書などの必要書類を提出すれば、A-BもしくはC-Dの筆界を特定することができます。
上図で説明したように、自分の所有する土地の範囲以外でも、筆界特定の申請が可能となる場
合があります。筆界特定制度は仕組みが複雑であるため、なかなか一般の人には理解しがたい
点もあるでしょう。
この制度の利用をお考えの方は、申請を申し立てる前に、吉田登記測量事務所までご相談くだ
さい。